■ V逸の悲劇横浜Fマリノスは32節で磐田(A)に1対0で勝利して「優勝まであと1勝」に迫ったが、33節で新潟(H)に0対2で敗れて、最終節でも川崎F(A)に0対1で敗れた。結局、32節を終えた時点で「5」差を付けていた広島に大逆転で優勝をさらわれたが、「横浜FMの敗因」について、いろいろなことが語られている。お膝元と言える神奈川新聞には、以下のような記事がアップされているが、個人的には、しっくりこなかった。
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V逸の悲劇 横浜M激闘の2013(上)先発固定で最後に失速 ・
V逸の悲劇 横浜M激闘の2013(中)チーム一丸には遠く ・
V逸の悲劇 横浜M激闘の2013(下)中堅、若手の奮起期待特に気になったのは、(中)に記述されている以下の部分である。
ナビスコ杯準決勝第1戦の柏戦に0-4で完敗し、決勝進出がほぼ絶望的になった翌日、9月8日のミーティングでのことだった。「もう一度、一つになって頑張ろう」。樋口靖洋監督は全員を前にこう呼び掛けたが、サブ組がグラウンドに向かうために席を離れると、言葉を一転させたという。「これからの戦いは、このメンバーで戦っていくからな」。主力組への鼓舞は、サブ組を含めて一丸となろうとしたイレブンにとって、水を差すようなものでしかなかったという。「本当にあり得ない。選手に言う必要があるのか」。伝え聞いたサブ組の一人は文句をぶちまけた。より一層チーム力が試される終盤戦を前にチームは揺れていた。
結局、樋口監督のマネージメント能力の欠如が「チーム一丸には遠く」の原因で、このことが「V逸の理由」の1つだったと言う。確かに「主力組」にこだわり過ぎた点は否めない。が、結果を残してきた上位チームのメンバーが固定されるのは、ごく普通のことである。怪我人が多かった川崎Fは例外と言えるが、1位の広島も、4位のC大阪も、5位の鹿島も、6位の浦和もほとんどメンバーは変わらなかった。
広島でいうと左WB、C大阪では両サイドハーフ、鹿島では左SBと2列目、浦和では両WBが変更になるケースがあったが、それ以外のポジションは「ほぼ固定」である。横浜FMだけが「極端に固定メンバー」だったというわけではない。そして、日本代表でも同様であるが、「メンバーを固定して戦うこと」をネガティブに捉える風潮はどうかと思う。全くメンバーを固定できないことよりも「はるかにマシ」である。
もちろん、降格圏のチームなど、結果が出ていないチームがメンバーを固定することに対しては、「ちょっとおかしいのではないか?」と思わざる得ないが、今シーズンの横浜FMは固定メンバーでしっかりと結果を残してきた。最終的にはMF兵藤を除く10人が「Jリーグの優秀選手」に選出されたが、MF兵藤も含めて「スタメン11人は固定されるに値するパフォーマンス」を見せてきた。
■ メンバー固定について当然、選手起用というのは、監督の好みにも左右されるので、「結果を出しているのに、全然チャンスが与えられない。」というケースもある。そういう選手が不平や不満を言いたくなる気持ちはよく分かるが、今シーズンの横浜FMのサブ組の選手で「自分は冷遇されている。」と強く主張できるほど、数少ない与えられたチャンスで存在をアピールできた選手がいたとはちょっと思えない。
シーズン途中で解任された大宮のベルデニック監督も、解任に至った理由に関して、「メンバーが固定されていたので、サブ組の選手から不満の声が出ていた。」という点を挙げるメディアもあったが、これもおかしな話である。前半戦の大宮にしても、今シーズンの横浜FMにしても、十分過ぎるほどの結果を出している以上、ある程度、メンバーが固定されるのは当たり前のことである。
サブ組の選手が「監督に不満を持つこと。」を否定するわけではない。入団して間もない若手選手はともかくとして、それなりに実績のある選手であれば、「なぜ、自分を使わないのか?」と思うのは、普通にありえることである。ただ、そういった気持ちをストレートにぶちまけていたら、「チームの一体感」が生まれるはずもない。プロである以上、ある程度は我慢しなければならない。
「サブ組のメンタルケア」に関して、著しいほどの落ち度があったのであれば、樋口監督が批判されても仕方がないが、Jクラブの監督としては、山形(2006年・2007年)、大宮(2008年)、横浜FC(2009年)、横浜FM(2012年・2013年)という経歴なので、6シーズン目である。その部分を蔑ろにしているとはちょっと考えにくくて、責められるほどの大きな失態があったとは思えない。
■ 経験豊富なベテランもちろん、終盤戦でゴールから見放されていたFWマルキーニョスにこだわった点など、樋口監督の選手起用で至らないところはあったが、結果を出してきた主力組を信頼して、文中にあるように『これからの戦いは、このメンバーで戦っていくからな。』と激励することは、そんなにおかしな話ではない。そして、サブ組の選手に『本当にあり得ない。』と激怒されるような内容でもないと思う。
正直なところ、横浜FMのサブ組の中で、『そういうことを言いそうな選手』は思い浮かばない。事実なのか、作り話なのか、微妙なところである。フィクションの可能性もあるが、もし、この話が事実であるならば、「チーム一丸には遠く」あるいは「V逸」になってしまったのは、樋口監督のマネージメント力不足が原因というよりは、精神的に幼い選手がサブ組にいたことが原因のように感じる。
ただ、1つ気になったのは、横浜FMのサブ組に経験豊富なベテランがいなかった点である。例えば、34節の川崎F戦(A)でベンチスタートだったのは、GK六反、DFファビオ、DF奈良輪、MF小椋、MF端戸、MF佐藤優、FW藤田祥の7名だったが、DFファビオ、DF奈良輪、MF佐藤優、FW藤田祥は加入1年目で、MF端戸も北九州から戻ってきて1年目。横浜FMで実績を残してきた選手は28歳のMF小椋だけである。
「実績はあるけれども出場機会に恵まれていないベテラン」というのは、サブ組の雰囲気を作る上で貴重である。今シーズンの広島で言うとDF中島、浦和で言うとDF坪井やDF山田暢、鹿島で言うとMF本山やDF岩政、C大阪で言うとDF新井場やDF茂庭などが浮かんでくるが、そういう選手が不貞腐れることもなく、懸命にトレーニングをしている姿を見せられると、出場機会に恵まれない若手も文句を言えなくなる。
もし、サブ組の不満の高まりが一体感が生まれない要因になったのであれば、「編成のミス」と言えなくもないが、そういう選手を「補強」するのは無理である。そして、MF小椋は怪我上がりで、まだ28歳。サブ組のリーダーを期待するのは酷であり、FW藤田祥も移籍1年目。横浜FMのような大きなクラブでプレーするのは初めてなので、「自分のことで精いっぱい」となるのは当たり前である。
結局のところ、「試合に出られない悔しさ」を持つことは絶対に必要だと思うが、チームスポーツである以上、出場機会が与えられない選手が出てくるのは当たり前である。監督やコーチが十分なメンタルケアをしなければならないのは当然として、チームとして結果が出ている中、不満を露わにする側を擁護するというか、そういう態度を「正」として監督を批判するのは、ちょっと違うのではないかと思う。
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