■ 開幕戦J1の開幕戦。昨シーズン、最終節で奇跡的な残留を果たしたヴィッセル神戸と、クラブOBのぺトロビッチ監督を迎えた浦和レッズの対戦。2010年の最終節はアウェーで神戸が4対0で勝利して残留を引き寄せた。神戸は浦和を得意としており、昨シーズンも2戦2勝である。
ホームの神戸は<4-2-2-2>。GK徳重。DF石櫃、北本、河本、茂木。MF田中英、松岡、朴康造、大久保。FWポポ、吉田。MFボッティ、MF小川は欠場。C大阪から移籍のMF羽田はベンチスタートとなった。MF大久保は左サイドハーフでスタメン出場となった。
対する浦和は<4-2-3-1>。GK山岸。DF平川、山田暢、永田、宇賀神。MF鈴木啓、柏木、田中達、マルシオ・リシャルデス、原口。FWエジミウソン。新外国人のFWマゾーラ、オーストラリア代表のDFスピラノビッチはベンチスタートとなった。
■ FWポポが決勝ゴール試合は立ち上がりから両チームの守備がタイトでファールの多い激しい展開となる。神戸はMF大久保が起点になって攻撃を行い、浦和は両サイドハーフが攻撃の軸となる。序盤は浦和が危ない位置でボールを失うシーンが多く、神戸は何度かカウンターでチャンスを作る。しかし、ゴールは奪えずに、前半は0対0で終了する。
後半は膠着状態になるが、後半17分に浦和のMF鈴木啓が2枚目のイエローカードで退場し、10人になる。「これで神戸ペースになるか」と思われたが、このあたりから神戸の足が止まってきて、神戸ペースにはならない。
リズムの良くない神戸は後半29分にMF朴康造とMF吉田に代えて、MF森岡とFWイ・ジェミンを投入。この交代が成功する。MF森岡の起用で流れを呼び込むと、後半31分に入ったばかりのMF森岡がゴール前で倒されてフリーキックを獲得。これをMFポポが右足で狙うと、鮮やかにゴールを揺らす。結局、これが決勝ゴールとなって神戸が1対0で勝利。浦和はまたしても開幕戦に敗れて黒星発進となった。
■ FWポポの決勝ゴール神戸はFWポポのフリーキックからのゴールを守って、開幕戦で勝利を飾った。前半も非常に惜しいフリーキックがあったが、見事にアジャストしてネットを揺らして見せた。神戸は本格派のストライカーがおらず、FWポポとFW吉田の2トップになっていて「得点源」となる選手がいないのが気になるが、昨シーズンに続いて、FWポポがいいところでゴールを奪った。
神戸は新外国人のMFホジェリーニョのコンディションが整っておらずベンチスタート。MF羽田もベンチスタートだったので、結局、昨シーズンからチームに在籍した選手がスタメンに並んだ。メンバーが入れ替わっているチームが多い中、同じメンバーで戦えるというのは、序盤戦は強みとなるだろう。
■ 高さ不足 気になるのは「高さ不足」ということである。このチームは「アタッカータイプ」は豊富で、MF大久保、MF朴康造の他に、FWポポ、FW吉田、MF小川、FWイ・ジェミンといる。FWポポとFW吉田の2トップなので、前線の4人はすべてアタッカータイプであるが、FW吉田が174㎝、FWポポが168㎝、MF大久保が170cm、MF朴康造が166㎝、MF松岡が173㎝、MF田中英が172㎝なので、中盤から前の選手は、全く高さがない状況である。Jリーグでもこれだけ背の低い選手が並んでいるというのは珍しい。
長所は「運動量」の多さであり、動ける選手ばかりなので、前から厳しく当たっていけることが出来る。しかしながら、サイドバックのDF茂木も174㎝と小柄であり、セットプレーになると、ミスマッチばかりになってしまう。浦和があまり高さを生かしたプレーがなかったので問題は少なかったが、気になるところである。
■ 2年目のMF森岡数的優位になりながらも「パワーダウン」していた神戸を救ったのが途中出場のMF森岡。MFボッティが不在でボールを落ち着かせる選手がMF大久保くらいしかおらず、リズムの変化に乏しかったチームに活力を与えた。FW吉田を筆頭に、使われるタイプの選手が多い中、MF森岡が入ったことで、中盤のかみ合わせも良くなった。
この選手もロンドン世代で、高校から入って2年目のシーズン。昨シーズンの終盤も攻撃の切り札となって、ヴィッセル神戸の中では最も期待されている若手と言える。前述のように争いがもっとも熾烈なポジションであるが、まずは「ジョーカー」として確実に仕事をこなしていくことが期待される。
■ 上位は厳しいか?①対する浦和はチャンスは作ったが、決定的なシーンでMFマルシオ・リシャルデスがシュートをミスするシーンが何度かあって、ゴールは奪えなかった。プレシーズンマッチでは消えていたMFマルシオ・リシャルデスは、さすがに公式戦になるとチームに馴染んできており存在感を発揮したが、この日はキックの精度を欠いてしまった。
昨シーズンは10位に終わった浦和は、今オフにMFマルシオ・リシャルデス、DF永田、FWマゾーラらを獲得し「上位候補」と言われるが、プレシーズンマッチの鳥栖戦、大宮戦栃木戦、開幕戦の神戸戦を見る限り、上位進出は厳しそう。FWエジミウソンら得点を計算できる選手はいるので、低迷することも考えにくいが、大きく浮上することも想像しにくい。
■ 上位は厳しいか?②浦和は、フィンケ監督のパスをつないで崩すサッカーから、ウイング的なポジションを置くサイド攻撃重視のサッカーに大きく変わっているが、サイドバックの攻撃参加はほとんどなくて、ウインガーの突破力に頼るサッカーになっている。サイドアタッカーは強力なので、1対1でも抜いてクロスを上げることはできるが、中にいるのが、FWエジミウソンやMFマルシオ・リシャルデスだけでは、なかなか点にならない。
このサッカーになったことで、MF原口はイキイキしており大ブレークは確実であるが、MF田中達も、FWマゾーラも、MFマルシオ・リシャルデスも、MF柏木も、DF宇賀神も、窮屈そうにプレーしており、素材を生かし切れてはいない。シーズン序盤なので「コンビネーションが確立すれば・・・」というエクスキューズも可能ではあるが、「コンビネーション」を必要とするサッカーでもなくて「劇的な発展」は考えにくい。
ぺトロビッチ監督のインタビューを聞く限り、選手に合ったシステムや戦術を選んだというよりは、自分の哲学を重視して<4-2-3-1>を採用したようであるが、チームにいる選手とミスマッチのサッカースタイルのように思えてしまう。もちろん、フィンケ前監督のサッカーに問題がなかったわけではなく、2年間のシーズンを終えて「限界」は感じられたので「続投」という判断をしなかったのは間違いではないが、なぜ、後任監督が、指導者としての実績の乏しいぺトロビッチ監督だったのかというのは、やはり「謎」である。
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