■ グループリーグが終了グループリーグの48試合が終了し、残りはちょうど1/4の16試合。決勝トーナメントの16試合を残すのみとなった。
大会前は、まさか日本代表が決勝トーナメントに進出するとは思っていなかったが、ここまで来ると欲が出てくる。1回戦で対戦するパラグアイは強敵であるが、同じ南米で優勝候補のブラジルやアルゼンチンよりは戦いやすい相手であり、ビエルサ監督に率いられて魅力的なサッカーを見せているチリや、強力なフォワードを持つウルグアイよりは何とかなる相手なのかもしれない。
■ <4-2-3-1>と<4-1-2-3>さて、グループリーグ突破を決めたデンマーク戦であるが、全く同じスタメンだったがシステムを変えてきた。ずっとうまくいっていた<4-1-2-2-1>に代えて<4-2-3-1>に採用。これは意外だったが思いのほか機能せず、あっさりと元のシステムに戻した。これも試合のポイントになった。
デンマークで怖かったのは「サイド攻撃」と「FWトマソンの飛び出し」。FWベントナーという大型フォワードがいるので中央のエリアを空けることは出来ないが、FWトマソンの飛び出しに対して両センターバックが対応しようとすると、中央の守備のバランスが崩れる。FWトマソンの動きをMF阿部が監視できれが問題ないが、MF阿部がマンマーク気味にFWトマソンにつかざるえなくなるとバイタルエリアにスペースが出来てしまう。それ故、1ボランチではなくて、最初からダブルボランチを形成したと思うが、逆にバランスを崩した。
■ 強敵のデンマークなにはともあれの決勝トーナメント進出である。これで、最低、4年間は、「ワールドカップでグループリーグを突破した国」として、代表チームを誇れる資格を持った。考えてみると、過去の3大会で2度目の決勝トーナメント。イタリア、アルゼンチン、オランダ、ポルトガルと同じであり、フランスを上回る。
それでも、試合終了のホイッスルが鳴った時、思ったよりも冷静でいられたのは、「朝方の試合だったこと」以外に、「比較的、余裕のある展開だったから」だろうか。引き分けでもOKだった日本は、さらに2つの失点を喫しても大丈夫という非常に有利な状況だった。岡田監督も、「カメルーン戦の勝利の方が興奮した。」と語っていたが、同じような心境だった。
ただ、試合後には、デンマークも強かった、という印象は残った。DFアッゲルを除くと、勇敢でフェアな選手が揃っていて、シュート数もデンマークが19本に対して日本が15本。序盤の日本が混乱していたという部分もあるが、立ち上がりのデンマークの攻撃は驚異だった。
北欧のチームは、大柄な選手を生かした単調なサッカーを見せるチームが多いが、デンマークのサッカーは異質である。MFグロンキアやMFロンメダールといったスペシャルなサイドの選手がいることも大きいだろうが、サイドを生かしたサッカーは非常に魅力的である。カメルーン戦のFWベントナーの同点ゴールにつながった攻撃はダイナミックでお手本のようなサイド攻撃であった。
■ 焦ったデンマーク幸いだったのは、日本が先に2点リードを奪ったことで、デンマークが焦ってくれたことである。
ビハインドの状況になっても、前半の始めのように丁寧にサイドを使われていたら苦しくなったと思うが、次第にデンマークの攻撃はディフェンスラインからのロングボールが主体となっていった。デンマークの前線は大きな選手ばかりなので、両センターバックは苦しかったと思うが、嫌らしさはなくなって、普通のチームとなった。
ここでも効いてきたのはオランダ戦の「0対1」というスコア。オランダに0対2で敗れたデンマークとの差は1ゴールのみであったが、非常に大きさ差だった。もし、同じ立場でデンマークと対戦したとしたら、劣勢の展開になるかもしれない。デンマーク戦を前に、「引き分けでもOK」という状況を作った日本の勝利だった。
■ トマソンのプレー結局、デンマーク側に立つと、FWトマソンが何度かあったチャンスに決め切れずに1ゴールのみに終わったことが敗因の1つとなったが、日本側に立ってみると、FWトマソンの動きは危険極まりなかったが、多くのチャンスがありながらも決めきれなかった部分はマイナスとなる。
フェイエノールト時代にMF小野伸二とホットラインを築いていた選手ということで日本のサポーターにもなじみの深い選手であるが、要警戒と報道されてきたFWベントナーの3倍くらい存在感があった。彼も33歳となっていて、カメルーン戦を見ると衰えたかと思われたが、日本戦はまるで動きが違った。
彼は抜け目の無いストライカーであり、動き出しは日本も警戒していたと思うが、やられるシーンが多かった。パラグアイの選手もDFの隙間に入ってくる動きに優れているので、日本としては修正したいところである。
■ 遠藤のフリーキックのゴール雅さんのコメントにもあった通り、2点目の遠藤のゴールは世界中の予測を裏切るゴールだった。
普段、Jリーグを見ている人であれば、「ヤットの得意のエリア」であり、FW本田ではなくてMF遠藤が狙う位置だと思っただろうが、情報の乏しい海外のサッカーファンや、中継を行っていた日テレはMF本田圭が蹴るものと疑っていなかった。もちろん、デンマークの選手の同様である。あまりにも、その数分前のFW本田圭のゴールのインパクトが大きかったので仕方がないとはいえ、明らかに壁も「ホンダ警戒」の様子だった。
ただ、もう一歩、深読みすると、ここ1年ほど、MF遠藤の直接フリーキックはかなり精度が低く、上にふかしてしまうシーンがほとんどであった。おそらく、Jリーグのサポーターの中でも、年に数回だけ、MF遠藤と対戦しているチームのサポーターは「直接ゴール」の期待をかけただろうが、最近のFKの精度を知っているガンバ大阪のサポーターは期待薄だったかもしれない。(デンマーク側も、「最近、MF遠藤のフリーキックはイマイチ」と知っていて、あのような対応となったならば、もっと話は面白くなるが、その可能性は低いだろうか。)
いずれにしても、ワールドカップで1試合2本のフリーキックを決めたのは、44年ぶり。ガリンシャ&ペレ以来だという。グループリーグで挙げた4ゴールはどれも素晴らしいゴールだったが、あえて選ぶとすると、いろいろな意味で、MF遠藤のこのゴールが一番、感慨深かった。
■ 持っている選手 or 持っていない選手今回のワールドカップを見ていても、シュートが紙一重でポストやバーに当たるシーンが多く、その1つのシュートで両チームの明暗が分かれてしまうことも多い。こういうプレーに対して「攻撃側のシュート精度が低い」とか、「DF陣が頑張っている」とか、いろいろと論じることが出来るが、カメルーン戦にゴールを決めてFW本田圭が語っていたように、「持っているか。」と「持っていないか。」の違いが大きいような気もする。
FW本田圭のフリーキックも、あの位置からだと練習でもなかなか入らないように思うが、彼は、それを大事なグループリーグ3戦目で決めてしまう。「実力」もさることながら、「実力」だけでは図れないし、「ラッキー」と表現するのもふさわしくはない。単純に、「持っているか」、「持っていないか」。
ワールドカップという大舞台ではなおさら、「持っている選手」は誰かを見極めることも必要である。
■ 決勝トーナメントに向けて次は決勝トーナメントである。もう、失うものは何もない。ベスト16入りといのは快挙であり、仮にパラグアイに敗れたとしても誰も文句は言わないだろう。だから、思い切ってプレーしてほしいと思う。ただ、こういうチャンスは滅多に回ってくるものではないので、無駄にはしてほしくはないという思いもある。
今大会のイタリア代表はイマイチだったので、もしかしたら、決勝トーナメント1回戦の相手がイタリアだった方が楽だったのかもしれないが、それでも「イタリア代表」。ブランド力はあって戦いにくい相手である。一発勝負のトーナメントでの強さはこれまでの歴史が証明している。そのイタリアがグループリーグで敗退した。これによって、第1シードのチームとの対戦を避けられた。これも1つの幸運であり、こういうチャンスが次にいつ巡ってくるかは分からない。4年後なのか、8年後なのか、12年後なのか・・・。