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松本育夫(サガン鳥栖GM)のサッカー人生 | | このエントリーを含むはてなブックマーク | 

■ 松本育夫の人生

サッカー解説者というと、松本育夫氏の名前を思い出す人は多いだろう。1990年代において、トヨタカップや日本代表戦やヴェルディ戦など、日本テレビ系列の中継では、松本氏が解説を努めることが非常に多かった。ソフトな口調でよく通る高い声が印象的である。

その松本育夫氏は1941年に栃木県で生まれた。1960年に早稲田大学在学中に日本代表に選ばれると、1963年には早稲田大学を天皇杯制覇に導き、翌1964年に東洋工業(現サンフレッチェ広島)へ入社。1968年のメキシコ五輪では銅メダルを獲得した。

現役引退後は、主にユース代表監督として、手腕を発揮する。長らく、ユース代表監督を務め、DF井原らを育てる。

1996年にマツダを退社。京都サンガのGM、川崎Fの監督を経て、2002年、長野県の通信制高校である私立地球環境高等学校で監督に就任。わずか7ヶ月という短期間でチームを作り上げ、同年末の高校選手権で長野県代表を勝ち取るという偉業を成し遂げたことは、大きな話題となった。(2003年8月に方向性の違いから辞任。)

その彼が、鳥栖にやってきたのは、2003年の秋のことである。

※1 2003年秋に監督就任のオファーを受けた松本氏は、極秘に鳥栖を訪問。偶然にも、鳥栖駅前で存続の危機に陥っている「おらがまちのチーム」を救うために懸命に署名活動を行っているサポーター集団を目撃する。そして、「松本育夫・東京都」と署名した。


■ 瀕死の状態から・・・

このころのサガン鳥栖は、まさしく瀕死の状態だった。2003年のリーグ戦は、44試合で3勝30敗11分。ダントツの最下位で、観客動員も伸び悩み、平均で3172人。毎年のように、オフになると、チーム解散のうわさが立ち上がるほど、追い詰められていた。

2004年に監督に就任した彼が必要としたのは、「精神的に安定していて、苦しいことに負けない、人と一緒にサッカーができる、がんばれる選手」だった。

初年度の2004年は12チーム中11位に終わったが、それでも8勝25敗11分けで勝ち点を前年の20から35に伸ばしている。2年目のシーズンは、14勝20敗10分け。3年目のシーズンは、22勝13敗13分け。特に、2006年シーズンは、エースストライカーのFW新居辰基の23ゴールの大活躍もあって、順位をチーム史上最高の4位にまで押し上げる。2006年の観客動員数は平均で7465人。2003年シーズンと比べて、倍増を記録した。

この年、65歳になった彼は監督を勇退。現場を離れ、サガン鳥栖のGMに就任する。

※2 2006年11月12日のホームの湘南戦では、チーム史上最高の18231人の大観衆がスタジアムを埋め尽くした。「夢プラン21」と題し、鳥栖市の小学生の「鳥栖スタジアムが2万人以上入って満員になっているところを見てみたい。」という夢を実現させるべく、チーム全体で取り組んだ成果だった。


■ 明確なチームカラー

サガン鳥栖にJ1経験は無い。チームの歴史を振り返っても、ネガティブな話題で取り上げられることはあったが、ポジティブな話題で取り上げられることは、ほとんどなかった。ただ、松本監督就任以後、背伸びすることなく、着実に力を蓄えてきた。その成果が実を結んできている。

「90分間、休まずにサッカーができること。」これが、サガン鳥栖のチームカラーである。

教え子の一人である柳下正明氏はコンサドーレ札幌の監督時代に、「今の鳥栖は(松本)育夫さんのチームとすぐ分かる。自分も『柳下がやっているチームだな』と分かってもらえるような指導者になりたい」と述べている。

華麗なサッカーが支持されるのは常だが、スタジアムに集まるサポーターは、華麗なプレーばかり望むわけではない。むしろ、泥臭く、諦めない、戦う姿勢を見せる選手(チーム)をサポートしたいと望むものである。

■ サガン鳥栖の未来図

Jリーグは誕生してた15年が経過した。現在、33のJリーグクラブが存在する。いよいよというべきか、各クラブごとに特徴も見られるようになってはきたが、いまだにチームカラーを見つけられずにさまようクラブも少なからず存在する。鳥栖よりもはるかに戦力に恵まれていて、はるかに資金力があるにもかかわらずである。

「プロの世界では結果がすべてで、結果で評価すべき。」という考えも一理ある。とはいっても、サガン鳥栖を浦和レッズのようなクラブと同列に並べることはできなし、サガン鳥栖が浦和レッズになることはできないだろう。サガン鳥栖が、毎試合のように巨大スタジアムをチームカラーで染め上げて、日本を飛び出し世界の舞台で戦う、そんな姿を想像することは難しい。

ただ、反対に、浦和レッズがサガン鳥栖のようになることも不可能である。大都市のビッグクラブが、鳥栖スタジアムのようなアットホームな雰囲気を作り出すことはできないし、日本代表クラスが並ぶ豪華メンバーに、鳥栖の選手と同じようなひたむきさを求めるのは難しい。

30年後、50年後、100年後を描く未来は、もしかしたら同じなのかもしれない。だが、各クラブが進む道はそれぞれでいい。サガン鳥栖が、浦和レッズやガンバ大阪や横浜Fマリノスを目指す必要は全くない。

■ サガンの人材育成

サガン鳥栖は、1997年2月に経営難により解散した鳥栖フューチャーズを引き継いだチームである。サガンになってからも、毎年のように経営危機に見舞われてきた。したがって、他のクラブのように、リスクを背負って、目標(J1昇格)のためにお金を投資することは出来ない。

チームの中心であるレフティのMF高地系治はFC琉球、守備の要のDF飯尾和也は静岡FCから加入した選手である。かつてのエースストライカーFW新居辰基(現千葉)も同様に静岡FCからの加入選手だった。

現実に、能力はあっても、下部リーグで埋もれている選手は少なくない。サガン鳥栖は、こういう選手を吸い上げる力に優れていた。

※3 2005年・2006年のFW新居辰基、2007年のFW藤田祥史と3年連続で日本人得点王を輩出する。ストライカーを育成出来るクラブとして、高い評価を得るようになってきている。


■ 日本代表への熱き想い

松本育夫氏の自伝書(天命 我がサッカー人生に終わりなし)の中では、2006年にドイツワールドカップを戦った日本代表チームについても、思いを述べている。いわく、 

   ・日本代表がもっとも戦えないチームだった。
   ・日本に何をもたらすことなく4年間が過ぎた。
   ・「自由」の意味を監督も選手も理解していなかった。
   ・監督は何故、大会後に、すぐに本国に帰国してしまったのか?

などなど。かなり厳しい言葉が並んでいる。

ただ、それの発言が全く嫌味に聞こえないのは、彼が心の底から日本サッカーの未来を思っての発言だからであろう。求められているから辛口なのでもなく、他者との差を示し自らの存在意義を示すための見せかけの辛口でもない。

本文中では、よく「後輩」という言葉が出てくる。思えば、サガン鳥栖と松本育夫に全く接点は無かった。それでも、「天命」と感じた鳥栖の再建に、全力で取り組み、同じサッカーで生きる(生きようとする)後輩たちを、全力でサポートした。

※4 1983年11月22日、マツダの人材開発担当としてヤマハ・つま恋研修所で800人の就職内定者のための研修会準備を行っていた際、ガス爆発に巻き込まれた(死者14名、重軽傷者28名)。自身も「四肢の複雑骨折と全身40パーセントの熱傷」という瀕死の重傷を負いながら、自力で脱出。救急車の中で「サッカーを続けたいので足だけは切らないでくれ」と懇願したと本人は述懐している。左手の指を4本失い、1週間の危篤状態が続きながらも奇跡的に回復した。現在、人前では必ず手袋をしているのはこの事故のためである。


■ 豊かさの意味

しばしば、世界各国のリーグランキングという数字が紹介される。文字通り、その国のプロサッカーリーグが世界中で第何位の競争力を示すのかを表すものである。

ただ、たいていの場合、リーグ戦上位のビッグクラブがCLやACL等で残した成績をもとにランキング付けされる。それはそれで間違いではないが、本質を表しているとはいえないだろう。

例えば、アルビレックス新潟やヴァンフォーレ甲府やサガン鳥栖のようなクラブが、直接的に世界リーグランキングの上下に関与するわけではないが、こういったクラブの存在が、リーグ(Jリーグ)全体に深みをもたらしているのは間違いない。

数年前と比べると、Jリーグ全体のレベルは横ばいかもしれない。トップクラブの競争力も、それほど大きな向上は見せていない。日本代表の戦績は、むしろ下降気味である。

ただ、それでも、サガン鳥栖のようなクラブを見ていると、本当に日本サッカー界は豊かになったなと感じる。

試合前④









年度監督試合順位勝点勝利引分敗戦得点失点得失差観客動員数
2003年千疋美徳4412位20311304089-493172人
2004年松本育夫4411位35811253266-343610人
2005年松本育夫448位521410205858±07855人
2006年松本育夫484位792213136449+157465人
2007年岸野靖之488位72219186366-36114人









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